愛しのホラーちゃん

口裂け女伝説 1 (講談社コミックスフレンド)関よしみ傑作集マッドハウス (ホラーMコミック文庫)蔵六の奇病 (リイド文庫―Leed horror bunko)

子供の頃、兄はなんというか、漫画の趣味が僕とは全く違っていて、なんでこんなつまんないものを買うんだろう…などと思っていたが、何故かホラー漫画を選ぶセンスだけは光っていた。当時は怪談ブームだった
中でも日野日出志の漫画にはトラウマという言葉では足りない。ギャーッ怖い!と泣き叫んで済むならどんなによかったろうか、と思えた。子供心にやりきれない、もやもやとした感情が読後何日か背中にずっしりと乗っかっているようだった。

「泣いて済む」ようなホラー漫画といえば犬木加奈子の漫画だった。絵が怖く、スプラッタな描写で怖がらせるタイプのホラー漫画だ。
別にどっちがいいとかいうのは好みの話だが、僕の触れた犬木加奈子の漫画は、掲載誌のこともあってか、絵の怖さに反して童話のような啓蒙的な、悪いことをしたからバチが当たった、というタイプの話が多く、本質はお婆ちゃんの語る昔話のように、ほっこりとしていたように思う。
ほんで、子供にはこういうのが一番の罠だろう、と思うのが関よしみの漫画。上の二つはなんとなく絵柄が怖いし、あー怖いんだなあ、と直感的にわかる要素があるけど、関よしみの漫画は絵柄だけでいえばまっとうな少女漫画のそれだし、ヘッ、こんなもん怖くもなんともねーぜ!とたかを括って読み始めると、すぐさまその考えが甘かったことを後悔する。
RPGのパラメーターでいうと関よしみの漫画は、「絵の怖さ」が10ぐらいで「話の怖さ」に100000ぐらい数字を振ってる。
絵が武器にならないホラー漫画家の練る話というのは、尋常じゃない、となんとなく当時小学生だった僕にもわかった。
大抵最初には幸せな場面が出てきて、それがメチャクチャになる。ある程度読み慣れるとそれは判る。それで、どうなっちゃうんだろう…という不安と共に読み進めて、色々な予想をする。そうやって、漫画の結末に、今の内に少しでも免疫を付けておこうとするのだが、読んでいくうちにそれが付け焼刃であることが判って絶望する。なんたって読み手の想像力よりもずっと酷いことが絵になって現れてくるのだから、たまらない。

子供の頃、昼の内にそういったもの達を読み、夜中トイレに行けなくなるのは確定的に明らかなのに、不思議と目が離せなかった。電気を付けずとも部屋に日の光が当たっていることで、気が大きくなっていたのだろうか。
そうだとしても、それだけが理由にならないこともなんとなく判っていた。両手で顔を覆っても、指の僅かな間からついつい眺めてしまう、そんな感じだった。
あの指と瞼を開かせる不思議な魔力を、愛すべきホラー漫画達は持っている。今も